カルト幹部体験記 第46話 やるべきことをやるしかない
- Shannon N. Smith
- 2018年5月18日
- 読了時間: 3分

(第1話はこちら)
2004年4月。24歳。ついに、御受戒(日蓮正宗に入信する儀式)の日がやってきた。
この一週間、わたしは仮病を使い、顕正会の活動から離れていた。尊敬するSD隊長に嘘をつくのは心が痛んだが、独断で行う以外に道はなかった。相談したところで、話にならないのは分かっている。
ずっと欠かさず行っていた勤行も、数珠なしで、お題目だけを朝晩唱え続けた。
西荻窪駅に着くと、H氏がわたしを迎えてくれ、一緒に近くにある日蓮正宗のお寺に行き、御受戒を受けた。
「これでシャノンさんは正式な日蓮正宗信徒です」。御受戒の儀式を終えると、H氏はそう言った。
その日は、そのまま少しだけH氏とお茶をしてから、早めに家に帰ることにした。
これですべてが終わった…なんてのんきなことは言っていられない。ここからが始まりだ。
わたしには、残されたやるべきことがたくさん残っている。
まずはKに連絡して、Kも顕正会から抜けられるよう、話す。
そしてSD隊長にもきちんと筋を通しておく必要がある。願わくば、顕正会を抜けさせる。
後輩も一人一人話していって、顕正会から抜けるよう説得する。
今まで顕正会に勧誘した一人一人に会って、謝る。
そしてそれらすべての人に、今度こそは日蓮大聖人の言われた通りの教えを保っている日蓮正宗への入信を、筋を通してからタイミングを見計らってすすめていく。
想像するだけで、足が震えてきた。
わたしは顕正会の活動にすべてを懸けていた。
学校もやめた。夢も捨てた。青春も捨てた。
間違っていたら腹を切る、と言い切っていた。しかし、実際に間違っていると気づいて思ったのは、こんな負け犬みたいな状態のまま死にたくない、ということだった。また、今死んだら、日蓮正宗の教えに沿って考えると私は地獄に堕ちる。そして、実際に腹を切ったら、家族や身近な人にとって、こんな迷惑な話はない、という考えも浮かんだ。
自殺は選択肢にない。腹を切る、なんて格好つけたことを言ったが、実際にはできないでいる自分のちっぽけさと真正面から向かい合うしかない。
それよりも、今、わたしがやるべきことは、自らの誤りを認め、迷惑をかけてしまった人たち一人一人に頭を下げて誠意を見せること。
ダメだ。心臓が痛い。口が乾く。手足が震える。視界がゆがむ。
こんなにも、何かにすべてをかけてそれが完全崩壊していくのは、苦しいことだったとは。
逃げたい。
『ほーら、だから言っただろ』
『あ、やっと気づいたんだ』
『うん、そのほうがいいよ』
わたしが謝りに言ったら、これ見よがしにわたしをバカにしてくる人間や、『上から目線の優しさ』を投げかけてくる人間もいるに違いない。
確かに顕正会は間違っている。しかし、かつてのわたし含め顕正会を本気で信じて活動している人たちは、世の中の人間が遊んでいる時にも、日本および世界を救う戦いに命を懸けて奔走しているんだ。夏休みも正月休みも週末も何もない。幹部であれば、365日、つねに戦っているんだ。結果的に誤りだったとしても世界を救おうと本気で戦っている人間に対して、国の恩すら感じずに私利私欲をむさぼり続けて、偉そうに大上段に立って評論家みてーにごちゃごちゃ言ってんじゃねえ! お前ら命がけで何かやったことあるのか?
こんな状況だっていうのに、人に迷惑をかけた罪悪感以外にも、変なプライドをベースにした妄想が頭の中を駆け巡る。
悔しくて涙が出る。
でも、逃げない。
やるべきことをやるだけだ。
(最終話へと続く)
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当ストーリーはファウンダーであるShannonが実際に体験したノンフィクションです。そのため人名等は伏せています。記憶を頼りに書いていますので、万が一記憶違いなどがあった場合、すみやかに訂正します。Shannonは特定の宗教やカルトに現在属していませんし、信仰を勧めているわけでもありません。彼の体験をそのまま語ることが誰かの役に立てば、との思いで書いています。
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