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カルト幹部体験記 第42話 揺れる心

  • 執筆者の写真: Shannon N. Smith
    Shannon N. Smith
  • 2018年4月26日
  • 読了時間: 3分

(第1話はこちら

「では、また1週間後の○日、○時、西荻窪駅改札前でお待ちしております」。H氏はそう言うと、公園から一足先に出ていった。

 一人残ったわたしは、両手を広げて座っていたベンチに身体をより深くもたれかけると、空を見上げた。

 1週間後に、日蓮正宗妙観講本部へ行き、彼の上長と話しをする約束をした。

 この決断が正しいのか、間違っているのかは、わからない。

 ただ、はっきりしているのは、他の誰にも言えない、ということだ。

 隊長を通して男子部長に知れた日には、頭ごなしにこっぴどく叱られるに違いない。黙っていよう。そう心に決めた。

 数日後、わたしは、なぜか自分の支隊のF副長にこう言った。「この辺に最近、妙観講のやつらが来てるみたいだから、来ても相手にしないようにしてくださいね。何かあったら、わたしか隊長に連絡してください」

 わたしの心は揺れていた。何をしていいか、何を言えばいいか、分からなかった。

 だから、顕正会支隊長として、当然と思われる振る舞いをする以外に、選択肢はなかった。しかし、そこにわたしの意思はなかった。ただ、機械のように、求められた振る舞いをするだけだった。

 1週間後に妙観講本部を訪れる日が来るまでの間の記憶は、それしか残っていない。

2014年4月末。ついに妙観講本部に行く日がやってきた。

西荻窪駅前でH氏と合流する。

「おお、シャノンさん、本当に来てくださったんですね!」H氏の顔には驚きの笑顔が浮かんでいた。

「もちろんですよ。来ると言いましたからね」

「いやぁ、シャノンさんを疑っていたわけではないのですが、顕正会員は本当にすぐに逃げるんですよ」

 なるほど、話を拒否する顕正会員は、外から見ると、逃げているように見えているんだ、と思った。

 妙観講本部は、駅から徒歩10分ほど。住宅街の中にあった。

 外から見ると、宗教施設だとはわかりにくい。建物の入り口に通じる通路には、たくさんの人がいた。

 H氏の後について、建物の中に入ると、受付の女性が笑顔で「こんばんは」とあいさつしてきたので、わたしも「こんばんは」と応じた。

 靴を脱ぎ、下駄箱に入れると、H氏がわたしを小さな和室へと案内する。

 ふすまを開く。

「こんばんは」。真ん中にテーブルがあり、その向こう側に座る男性があいさつをしてきた。髪は短く七三っぽく整えられている。上にはブレザー、下にはスラックス。

「Y部長です」。H氏はそういうと、わたしをY部長の正面に座るよう、促してきた。

「シャノンです。初めまして」。腰を下ろしながら、Y部長の目を見て、そう言った。

「どうもどうも。いやぁ、本日は来てくれてとてもうれしいです。もううれしくて、うれしくて、さっきまでずっと上で感謝のお題目をあげていました」。Y部長は、本当にうれしそうな顔をして、そう言った。

 Y部長は、わたしの凝り固まった心をほぐそうと、過去に浅井克衛氏が男子部長だった時代に、男子部を引き連れ、妙観講本部に怒号をあげながら乗り込んできたときの話を、懐かしそうな表情で語った。

「もしあれだったら、本題とは少しずれているかもしれませんが、ビデオ見てみます?」Y部長が言う。

「んっ、浅井男子部長が乗り込んできたときのですか?」

「はい、とても面白いですよ」。Y部長は、ふっふっふっ、と冗談めいた顔をしながら、そう言った。

「では、ぜひ」

第43話へと続く)

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当ストーリーはファウンダーであるShannonが実際に体験したノンフィクションです。そのため人名等は伏せています。記憶を頼りに書いていますので、万が一記憶違いなどがあった場合、すみやかに訂正します。Shannonは特定の宗教やカルトに現在属していませんし、信仰を勧めているわけでもありません。彼の体験をそのまま語ることが誰かの役に立てば、との思いで書いています。

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© 2017 by Shannon N. Smith.

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