カルト幹部体験記 第22話 広がってゆく世間との感覚のズレ(その2)
- Shannon N. Smith
- 2017年12月1日
- 読了時間: 4分

(第1話はこちら)
「はい。運です。運は環境的に守られることです。そして生命力とは、言葉通り、生命の力です。逆境の時はそれを切り開き、順境の時はその状態を存分に楽しむ力です。これら二つが相まって始めて、本当の意味で幸福になれます」
「わかるような、わからないような」。彼女はせわしなく飲み物に手を伸ばす。
「要するに、運がないと、いくら生命力があっても、例えば極端な話し地震が来て瓦礫の下敷きになったら一巻の終わりですよね。つまり環境が自分の味方をしてくれないと、あっという間に死んじゃうかもしれません。そして、生命力がないと、いくら環境的に恵まれたとしても、その環境を楽しむことができませんし、人生で大変なことがあったら押しつぶされます。だから両方が必要なのです。そしてこの仏法とは、一言で言うと、運と生命力をつける方法なんです」
「へー」
ここでわたしは、自分の体験を、情熱込めて話した。仏法を始める前は薬物乱用の後遺症に苦しんでいたこと。それが仏法を実践し始めたら、わずか2週間でフラッシュバックがなくなったこと等々。
わたしの話しを聞く彼女の目は、少し潤んでいる。
当時、わたしの体験を聞いた人の多くは、素直に驚きや感動の表情を見せた。わたしが本気で仏法のお陰で人生が救われたと思っていたため、その情熱と確信に直に接することによって、一時的だとしても感化されるのだ。
「ということで、とりあえず一回試してみませんか?」わたしは、いよいよ『試す』という言葉でもって、『入信』を勧める。「あっ、ちなみにもちろんお金はかかりません」
「うーん、たしかに理屈はわかるし、あなたの体験も素晴らしいと思うけど、ちょっと宗教はあまり……」。やんわりと断ってきた。
「なるほど。宗教がどうかしたのですか?」
「いや、何ていうか。宗教には興味ないっていうか」
「まあ、たしかにそうですよね」。わたしは一旦相手の気持ちを受け入れる。
「うん。なので今回はいいかな」
もしここで相手が『試す』と言えば、そのまま入信勤行につれていくのだが、今回は断ってきたので、まだまだ話しは続く。
「そうですか。そしたら、一つ大事なことをお伝えする必要があります」
「なんですか?」
「実は、いま日本はとてつもなく危機的状況にあるのです」。ここに至るまで終始笑顔だったわたしは、顔に真剣さを帯びさせる。
日本の国家が破産寸前であること。巨大地震が目の前に迫っていること。北朝鮮や中国がいまかいまかと日本に攻め込もうと企んでいること。そしてそれらに関して知らず覚らず驚かず怖じず状態である、政治家をはじめとする国民の腐敗堕落について述べた。
「こういったことが、いま目前に迫っています」。わたしは言う。「そして、特に地震なんかはわかりやすいと思いますが、もう今、この場で起きてもおかしくありません。そこで死ぬか死なないかは、もうはっきり言って運としか言えません。まあ、実はもっと深い理由があるのですが、それは置いておいて。わかりやすい表現で言うと、運です。それがつく方法が仏法なのです。もちろんやる前から信じることはできないと思います。なので、だまされたと思って一回試してみませんか?それで本当だったら、こういった状況においても守られるわけですし、嘘だったら、それはそれだけですよね。なので、試さない理由はないと思いますが」
「うーん。そうね……」。彼女はうつむいて悩む。「でもやっぱりいいわ」
「なるほど」。
ここに至るまで、すでに2時間近く経っていた。多くの宗教勧誘は、ここらへんで切り上げるところだろう。しかし、こんなのはまだ序の口である。
「Wさん、お子さんいらっしゃるって言ってましたよね。おいくつですか?」
(第23話へと続く)
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当ストーリーはファウンダーであるShannonが実際に体験したノンフィクションです。そのため人名等は伏せています。記憶を頼りに書いていますので、万が一記憶違いなどがあった場合、すみやかに訂正します。Shannonは特定の宗教やカルトに現在属していませんし、信仰を勧めているわけでもありません。彼の体験をそのまま語ることが誰かの役に立てば、との思いで書いています。
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