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カルト幹部体験記 第21話 広がってゆく世間との感覚のズレ(その1)

  • 執筆者の写真: Shannon N. Smith
    Shannon N. Smith
  • 2017年11月24日
  • 読了時間: 3分

(第1話はこちら

 登用試験も終わり、さらに顕正会の活動に没頭すればするほど、世間との感覚のズレが大きくなっていった。

 多くの人は、学生であれば平日は学校に通い、週末は遊び、社会人であれば平日は働き、週末は休むなり家族と過ごしたり遊んだりするだろう。

 一方、顕正会では、「日本に残された時間は少ない。早く広宣流布せねば」という、焦りにも似た決意の空気が常に充満していた。

 土曜日の夜や日曜日は休んだり遊んだりする日などではない。広宣流布(仏法を国教とする)を進める日なのだ。

 特に幹部においては、文字通り、365日活動日。休みなど一切ない。

 わたしは折伏(勧誘)をすればするほど、ある認識が強まっていった。こいつら(顕正会以外の人)本当に火宅に遊ぶ子だ、と。

 当時わたしが行っていた折伏の典型例を一つ、紹介する。例のごとく記憶を頼りとして書いているため、言葉の語尾や、細かいところは若干事実と異なると思われるが、全体の流れは基本的にズレていないはずである。

 その40代の女性とは、通っていたパソコン学校で、知り合った。

 人当たりはとてもよく、いかにも良い人という感じがすると同時に、頼れる母親という側面も時おり覗かせていた。

 わたしは彼女を、お茶でもしよう、と誘い出し、西武池袋線ひばりヶ丘駅近くのファミレスで折伏した。

「仏法って聞いたことありますか?」わたしは切り出す。

「いや、ないけど。何それ?」彼女は答える。

「実はすべての人に共通した、人生の目的があります。なんだと思います?」

「うーん、なんだろ。子孫を残すこと?」

「おお、さすが母親ですね。実は子孫を残すというのは手段です。その裏には目的があります。なんだと思います?」

「へー。分からないから教えて」。彼女は飲み物に手を伸ばす。

「幸福です」。わたしが彼女の目を見ながらそう言うと、彼女は納得の表情を浮かべた。

 一拍おいて、彼女は口を開く。「でもさ、幸福って人によって違うから、なんていうか、抽象的に、言葉としてはそう言えるかもしれないけど、具体的にはやっぱりそれぞれが違う目的を持って生きてるんじゃない?」

「ですよねー」。わたしは、まるで聞いて欲しい質問を聞かれた先生かのように微笑む。「だから、その『幸福』という言葉の定義が大事ですよね。実はあるんです。全ての人に当てはまる本質的な定義が」

彼女は目を見開き、興味津々だ。

「幸福とは、生命の維持・発展が妨げられていない状態。不幸とは、それらが妨げられている状態です」

「へー、なるほど。たしかに、それは本質的にすべてに当てはまるわね」

理解の速い人だ、とわたしは感心する。「ですよね。んで、この幸福になるには二つ必要なものがあります。何だと思います?」

「うーん、現代で言えばお金、じゃない? お金がないと衣食住もままならないし、やりたいこともできないし。生命の維持・発展もクソもないわよね」

「たしかにお金はないと困ります。でもお金があっても、不幸を感じている人ってたくさんいますよね? わたしの知り合いでもお金持ちの人たちがたくさんいますが、そういった人たちの多くは、とても幸福な人生を歩んでいるようには見えません。いつも見栄ばっかり張って、人の目を気にして。ちょっとしたことですぐ怒るし。何ていうか、落ち着きも自信も感じません」

「まあ、たしかに・・・」

「はい。この二つのものっていうのは、実は、お金みたいに、時代によって変わるものではなく、より本質的なものです」

「うーん、わからないから教えて」

「運と生命力です」

「運?」彼女は、胡散臭いものに接したかのような視線を送ってきた。

第22話へと続く)

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当ストーリーはファウンダーであるShannonが実際に体験したノンフィクションです。そのため人名等は伏せています。記憶を頼りに書いていますので、万が一記憶違いなどがあった場合、すみやかに訂正します。Shannonは特定の宗教やカルトに現在属していませんし、信仰を勧めているわけでもありません。彼の体験をそのまま語ることが誰かの役に立てば、との思いで書いています。

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© 2017 by Shannon N. Smith.

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