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カルト幹部体験記 第12話 初めての日曜勤行、そして右翼(その2)

  • 執筆者の写真: Shannon N. Smith
    Shannon N. Smith
  • 2017年9月22日
  • 読了時間: 4分

(第1話はこちら

 自動ドアを通って本部会館の中に入ると、目の前に階段が見えた。吹き抜けの天井を背景に、二階の仏間と思しき部屋へと上っている。

またもや人混み。人が多い場所が嫌いなわたしは、少しげんなりしつつも、Kの後についていく。

 左手奥に進んで靴を脱ぎ、下駄箱に入れた。

「仏間は二階だからこっちね」。Kとわたしは階段を上る。

 仏間の入り口でKは歩みを止めた。「ここで御本尊様に一礼してから入ってね」と言う。部屋の奥に見える御本尊様に向かって一緒に頭を下げた。

「じゃあ、あっちの空いてるところに座ろう」。Kはわたしを奥の方へと誘導し、立ち止まり、また一礼してから正座して、手を合わせた。お題目3唱し、御本尊様に御挨拶する。わたしもKに倣う。

 もの凄く大きな仏壇だ。御本尊様が掛けられている位置は、恐らく地面から3メートル近くはあるように見える。

 導師席の横にあるリンも半端じゃなく大きい。気持ちいい音だろうな、と一人思ってはニヤっとした。

 辺りに目をやる。恐らく1000~2000人くらいは収容できそうだ。

 次々と人が入ってくる。あっという間に仏間は人で埋め尽くされ、徐々にバラバラだったお題目の声が、一つに重なり合っていく。わたしも一緒にお題目を唱え始める。

 気持ちいい。こんなに人の目を気にしないで大声でお題目を唱えられるなんて夢のようだ。

 しばらくは時間の感覚を忘れ、唱え続けた。

 気がついたら、導師席に人が座っていて、周りのお題目の声は止んでいた。全員が頭を下げたので、わたしも下げる。

「なんみょー」とマイクを通して勤行の始まりを告げるお題目が聞こえてくると、「ほー」と仏間の全員が唱和した。

 そのあまりの力強さに、わたしは圧倒された。

 3唱が終わり、また頭を下げると、導師が鳴らすリンの音で空間が満たされる。まるで宇宙の始まりを告げるかのような、神秘と迫力を帯びた甲高い音だ。

 厳粛。この時の空気を一言で表現すると、そうなる。

「みょーほーれんげーきょー ほーべんぽんだいにー」。導師が唱える。

「にーじーせーそんじゅーさんまいあんじょうにーきー・・・」読経が始まると、また全員で唱和した。

 身体中に電流が走る。全身が鳥肌に覆われた。

 なんなんだこのパワーは! すごい!

 あっという間に勤行は終わり、続いて浅井先生の指導テープが流れた。内容は覚えていないが、その確信と迫力に圧倒されたのだけは覚えている。

 勤行が終わって外に出ると、Kが聞いてきた。「どうだった?」

「いやぁ、すごいね。自分の家で、一人でやるのも好きだけど、とにかく迫力がすごいわ」

「あっ、H隊長だ」。突然Kが言った。「シャノン、隊長があそこにいるからちょっと紹介だけしていい?」

「もちろん」

 H隊長がKに気づいたようで、満面の笑みでKに手を振る。Kは元気よく「隊長、彼がシャノンです!」と言った。

「おお、シャノン君! よく来たね! Kから話は聞いてるよ! いやあ、よかった、よかった! どうだった今日は?」

 第一印象はとにかく“明るくて力強い男”という感じだった。その笑みからは仏法に対する揺るぎない確信と、底抜けの明るさがにじみ出ている。

「はじめまして。いやあ、すごい迫力でしたよ!」

 H隊長は、日曜勤行に参加する功徳(≒ご利益)がいかに大きいかについて語り、最後は「また功徳を積みにいつでも来てね!」と明るく言い、本部会館の中へと消えていった。

 この隊長が、幹部に対しては震え上がるほど厳しい人だと知るのは、この日から1年ほど経ってからだった。

 駅へ向かう道中、またあの演歌っぽい歌と厳つい声が聞こえてきた。

「そうそう、今週の平日に隊座談会っていうのがこの先の芙蓉会館であるんだけど、来ない?」Kは右翼の街宣車の音が聞こえていないのではないかと思えるほど、いつも通りの口調で聞いてくる。

「うん、いいよ」

 さっきわたしたちが来た本部会館の方向へと進んでゆく街宣車を、わたしは見つめた。

第13話へと続く)

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当ストーリーはファウンダーであるShannonが実際に体験したノンフィクションです。そのため人名等は伏せています。記憶を頼りに書いていますので、万が一記憶違いなどがあった場合、すみやかに訂正します。Shannonは特定の宗教やカルトに現在属していませんし、信仰を勧めているわけでもありません。彼の体験をそのまま語ることが誰かの役に立てば、との思いで書いています。

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© 2017 by Shannon N. Smith.

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