カルト幹部体験記 第7話 奇跡が起きる
- Shannon N. Smith
- 2017年8月18日
- 読了時間: 4分

(第1話はこちら)
今回の話を、いま本当に困っている人が読んだら、真っ先に顕正会の門戸を叩く可能性があるので、先に少し補足する。
顕正会にかぎらず、「熱烈な信仰」の世界では、以下に述べる奇跡や、耳が聞こえない人が聞こえるようになったり、末期がんが消滅したり、うつが治ったり等の話は、日常茶飯事とまでは言わないが、よく聞いたし、目の前でそういった人も見てきた。
こういったことは人間に本来備わっているポテンシャルがいかに凄いかということを示す証左であるとは言えても、ある特定の宗教の教えが全面的に善であるとか、正しいとか、信者が長い目でみて本当に幸福な人生を歩めるかどうかとは別次元の話である。
だから、奇跡を求めて「安易」に宗教や「スピリチャル」の世界に足を踏み入れるのは全くおすすめできない。のめり込み過ぎて、もう本人の意志では抜けたくても抜けられないところまでいってしまった人をわたしは数多く知っている。あなたにはそうなって欲しくない。
困難を克服する手段は他にもあると信じる。この辺りの詳しい考察は、すべての話が終わった後にでも述べたいと思う。
---以下本編---
「とりあえず、数珠とお経本はまた後日届けるから。それまでの間は富士山のほうを向いて、正座して手を合わせて一礼してから『南無妙法蓮華経』ってお題目を3回長めに唱えて、一礼して、繰り返しお題目を5分以上唱えて、一礼してお題目を長めに3唱して、一礼して終わり、みたいな感じでやってみて」。Kは言う。
よく一息でそこまで言えたな、とわたしは感心する。
そういえばわたしは数珠とお経本を、「勤行」を初めてためした帰り道にタダでくれると言っていたのに、その場で受け取らなかったことを思い出した。
「おお、OK。それだけ?」
「おお、それだけ。あっ、待った。富士山はシャノン家からだとだいたい南西の方角だから。磁石と地図で確認してみて」
「おう、じゃあ今日からやってみるよ」
「うん、頑張ってね」
わたしは電話を切って、二階の自室に戻った。
早速ためしてみよう。
その前に富士山ってどっちだよ、と思うと、あっ、南西って言ってたな、と思い出した。地図と磁石を片手に方角を確かめてから、正座した。
なんだか不思議な気分だ。
手を合わせてみた。
言われた通り、一礼してお題目を小声で3唱してみた。「なんみょーほーれーんげーきょー」
おっ、結構お坊さんっぽく言えてるじゃん、と思った。
温かいエネルギーが胸のあたりから沸いて身体中に広がっていく。
うわ、なんだこれ。気持ちいい……
お題目を繰り返し唱える。
なんなんだ、この温かい感じは……ここまで安心したのはいつぶりだろう……まるで母親のお腹にいるような……いや、そんなの覚えているわけないか……でもたぶんこんな感じだったのかな……これが仏様の慈悲か?……いや、まさか、いや、でもまさか、これマジじゃね……いや、これは理屈じゃねえ。すげー……
時間の感覚があっという間に飛び、何分唱えたかは思い出せない。終わった時には足が半端じゃなく痺れていたが、倒れるほどではなかったので、もしかしたら20~30分くらいだったのかもしれない。
わたしは生まれて初めて自宅でお題目を唱え、理屈ではない何かを感じた。
これこそわたしが長年求めてきた真理の教えであるに違いない、という確信がどこからともなく芽生える。
数日後Kが数珠とお経本を持ってきてくれ、それからはきちんと「勤行」を実践するようになった。以来カルトを抜ける日まで一日もサボることは無かった。
始めてから2週間ほど経ってあることに気づいた。
いつの間にか、フラッシュバックしなくなっていたのだ。また、持病であった過敏性腸症候群の症状も完全に消えていた。どころか、ありとあらゆる心身の不調もほとんど消えている。エネルギーに満ち溢れ、至福感にわたしは包まれていた。それは、覚せい剤で得られるハイな幸福状態とは違い、心が宇宙に根を下ろしているような安定感と安心感を伴った至福感だった。
それまでの流れから考えると絶対にあり得ないことだった。まさに「奇跡」としか言いようがない。
(※フラッシュバックが無くなった、ということがいかに凄いかピンと来ない場合は、重いうつ病や統合失調症があっという間に寛解したくらい凄い、と想像していただけたらと)
わたしはKにそのことを言った。
「よかったじゃん! 初心の功徳っていうんだよ、それは。あっ、そうそう。今度うちに来なよ。『発足30周年記念幹部会』っていうののビデオがあって、とにかくすげーから一緒に見てみようよ」
「おお、いきなりだな。でもいいよ」
わたしはこの段階で、まさかこの『発足30周年記念幹部会』のビデオによって、人生観を完全にひっくり返されることになるとは夢にも思っていなかった。
(第8話へと続く)
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当ストーリーはファウンダーであるShannonが実際に体験したノンフィクションです。そのため人名等は伏せています。記憶を頼りに書いていますので、万が一記憶違いなどがあった場合、すみやかに訂正します。Shannonは特定の宗教やカルトに現在属していませんし、信仰を勧めているわけでもありません。彼の体験をそのまま語ることが誰かの役に立てば、との思いで書いています。
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