カルト幹部体験記 第4話 好感転じて嫌悪感となる
- Shannon N. Smith
- 2017年7月28日
- 読了時間: 4分

(第1話はこちら)
1997年7月16日にあの「日蓮大聖人に帰依しなければ日本は必ず亡ぶ」と題した冊子が届いて以来、心のどこかで、Kが所属している団体は何かいままで接してきた団体とは違うのではないか、という気持ちが沸いては消える。
「日本に残された時間は少ない……共に手を携え……日本国を救おうではないか」(「日蓮大聖人に帰依しなければ日本は必ず亡ぶ」pp103-104)。今までの人生でこんなことを言う人にあったことはない。
あの冊子によると、日本はこれから巨大地震、国家財政の破綻、内乱、そして他国の侵略によって、亡びようとしているそうだ。
まさか、ノストラダムスの大予言が!! と一瞬思ったが、まあ、あれはたぶんただの都市伝説で、関係ないだろう。小さい頃は、弟と一緒になってかなり本気にしたが。
いまの日本が危ない状況にあるということは、少し学べば、誰にでもわかるはずだ。その点はあの冊子の言うとおりだと思う。さらにこうも言う。「ところが無邪気な日本人は、アメリカに依存しているこの安逸が、いつまでも続くと思い込んでいる。かくて一億二千五百万人の“主権者サマ”は、国家意識も稀薄でそれぞれが自己中心、国の防衛は他人にまかせて欲望肥大に浸り切っている。その平和ボケ、無責任ぶりは、今やこの憲法を押しつけたアメリカをも呆れさせ、苛立たせている」(pp97)。よく言ったものだ、と思う。
特に関心を惹いたのが、これらの問題は彼らの教えを国で保つこと、つまり国教にすることによって解決する、という解決策とセットで提示しているところだった。ああだこうだと、日本や世界がいかに危機的状況にあるかということについて言うことは誰でもできるが、解決策をセットで出しているのは珍しい。
確かに、終末思想を掲げる宗教は古くから存在し、解決策はその信仰を保つことであるとするものも多々ある。が、その終末感はどこか現実離れしていて、あまり具体的ではなかったりする。わたしが通っていたアメリカンスクールはキリスト教の学校だったのだが、掲示板に「すでにアンチキリストは降臨している」と落書きしたのを思い出す。「いつ黙示録は現実になるのよ」という揶揄の気持ちを込めてのことだった。
一方、この団体は具体的にどのようにして日本が亡びるか明示し、急がなければ間に合わない、という切迫感を持っていることがひしひしと伝わってきた。わたしはKの団体に好感を抱きつつあったことは否めない。
ただ、特に何もアクションを起こす気にはならない。それよりも、わたしは覚せい剤のことで頭がいっぱいだった。わたしにとっては、覚せい剤の切れ目が幸福の切れ目なのだ。
そんなある日、わたしのKの団体に対する印象が一変する出来ごとが起きる。たしか、1998年の中頃だったと思う。
Kがわたしの弟を勧誘したのだ。
「おい、シャノン、やばいよ。Kに常盤台の本部の近くまで友だち何人かと一緒に連れてこられて、なんかあいつの宗教を試さないと帰れない空気なんだけど。やりたくないのに、無理やりやらされそうな雰囲気だよ」。わたしの弟が電話口でそう言った。すでに夜の9時過ぎだった。
「おい、マジか。あいつ、ふざけやがって。とりあえず何があっても本部に入るな。強引には引きずり込めないと思うから、とにかく断り続けろ。今からそっちに行く。いや、その前にKを電話口に出せ」
「ちょっといま近くにいないから、呼んできて電話させるね」
「おお、わかった」
電話を切ると、わたしは怒髪天を衝く形相で自室の壁を殴った。「あのやろう、俺の弟に何しやがる!」
ほかの人間に強引な勧誘をしていたことをわたしは特に気にしていなかったが、大切な弟にされたらたまったものではない。しかも、やりたくないと言っているのに無理やりやらせようとしているときた。
わたしは、ベッドの奥にしまっていた木刀を取り出し、右ポケットにナイフを忍ばせると、いつでも出られるよう準備をした。
電話が鳴った。
「おい、シャノン。来なくていいよ。断り続けたら、帰してくれることになったよ。それにしてもしつこかった」。弟はそう言うと、安堵の息を漏らした。
「おお、そうか。気をつけて帰ってこいよ。Kとはもう話したくねえ」。私はそう言うと、電話を切ってとりあえず少し落ち着き、いっぷくした。
以来、Kの団体に対して抱きつつあった好感は強い嫌悪感へと転じた。やりたくない人間を無理やり引きずり込もうとする、クソ集団であると。カルトだと。
(第5話へと続く)
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当ストーリーはファウンダーであるShannonが実際に体験したノンフィクションです。そのため人名等は伏せています。記憶を頼りに書いていますので、万が一記憶違いなどがあった場合、すみやかに訂正します。Shannonは特定の宗教やカルトに現在属していませんし、信仰を勧めているわけでもありません。彼の体験をそのまま語ることが誰かの役に立てば、との思いで書いています。
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