カルト幹部体験記 第1話 出会い
- Shannon N. Smith
- 2017年7月8日
- 読了時間: 5分

「とりあえず一回ためしてみない?」
「はい、いいっすよ」。わたしは何の躊躇もなくそう言った。
――6時間ほど前
ようやく連絡がきた。1997年2月1日、当時18歳だったわたしはそう思いながら待ち合わせ場所の東久留米市中央公民館へと自転車で向かっていた。ずっと一緒にスケボーをやっていた親友の一人であるKが、とつぜん「変な宗教」にハマって、みんなをかなりしつこく勧誘しているという噂を聞いてからだいぶ時間がたっていた。
Kはある意味すごかった。Kとわたしの共通の友人のほとんどがKに宗教の勧誘を受けていた。そして周りがKのことを「頭がおかしくなった」「洗脳された」等々と批判していたにもかかわらず、Kはその勧誘の手を緩めなかったのだ。
しかし、わたしへの連絡はなかなかこなくて、少しさびしい思いをしていた。なんで俺にはなかなか話してくれなかったんだよ、と後で本人に聞いたら、ちょっとビビってたから、と言われ、二人で大笑いした。
当時のわたしは、世間から「不良」というレッテルを貼られていた。
真っ白に脱色された髪が、頭の中央を、おでこの生え際から襟足までツンツンに立った状態で走っている。頭の両サイドはスキンヘッド。
右耳にはピアスの代わりに安全ピン。
普段着は鋲だらけの革ジャンにヒョウ柄の半ズボン。足元は白い革靴。
両手首には鋭い鋲だらけのリストバンド。
左手の親指と人差し指の間には「幻」と一文字、入れ墨が入っている。
時代は1990年代なかばだ。現代とは違い、日本でこんな格好をしているやつは基本的に危ないから近づかないほうが身のためだろう。さらに、右ポケットにはつねにナイフを忍ばせていて、極めつけが、覚せい剤中毒でいつ何をしでかすかわからない、ときた。そんなわたしにビビっていたという気持ちはわからなくもない。でもほんとうは逆で、わたしが世界を恐れていたから威嚇していただけなのに。
待ち合わせ場所の公民館に着くと、Kはどことなく緊張感のある笑顔でわたしを迎えた。相変わらず地黒だが、一緒にスケボーをやりこんでいた時期に比べると、少しだけ体重が増えたように見える。
「よし、カラオケでもいこっか」。わたしは着くやいなやそういった。
「いや、ちょっときょう話したいことあってさ。中に入らない?」
おお、きた、と内心おもいながら「いいよ」と答えた。
「んでさ、知り合いも一緒なんだけどいい?」
「んっ? まあ、かまわないよ」
公民館の二階へあがり、テーブルを挟むかたちで設置されていたカウチにわたしたちは向かい合って腰掛けた。
ほどなくしてKの知り合いと称するAさんが来た。軽く挨拶をして、Kの隣に腰掛けた。Aさんは、見た目は20代後半といったところだろうか。身長180センチ以上、グレーのスーツに身を包み、物腰はやわらかく、顔には優しそうな笑みを浮かべていた。
最初は他愛もない世間話をした。
15分だか30分だか経ったころ、Kの面持ちが少し険しくなった。「そうそう、きょう話したいことなんだけどさ・・・」
「ああ、知ってる。●法についてでしょ?」Kがちょっと言いにくそうにしていたので、わたしは口を挟んだ。
「そうそう」。Kの表情が少し緩んだ。Aさんは、Kとわたしの表情を交互に見ると、わたしのほうに視線を定め、笑顔のまま繰り返し頷きはじめた。明らかに今までとは違う、真剣な雰囲気が漂っている。
「いやあ、待ってたんだよね。んで、なんなの仏●って?」
「うん、まあ、一言で言うと、幸せになるための法則なんだよね。シャノン、人生の目的ってなんだと思う?」
「おお、急にでかい質問だな」。そこからわたしはいろいろと述べた。何を述べたかは、はっきりとは思い出せない。その日も覚せい剤をキメていたため、いろいろなことを喋ったという記憶はある。が、細かいところの記憶は飛んでしまっている。
「そ、そうだよね。いろいろな捉え方があるよね。んでね、実はすべての人間に共通した人生の目的ってのがあって、それが『幸福』なんだ」。Kは頃合いを見て、言った。
「ほうほう」
「シャノン、幸福になるためには何が必要だと思う?」
ここからわたしは、ありとあらゆる方向へと話を発展させた、という記憶だけがかすかに残っている。宇宙の始まり。宇宙の端っこの先。時間。空間。意識。死。生。輪廻転生。自殺。善悪。宗教。真理。幼少期からわたしは、「死」や「真理」、「幸福」とかそういったことにばかり興味を持っていて、他のことはけっこうどうでもよかった。だから語りだしたらほんとうにとまらない。
Aさんも交えて、3人で熱く語った。楽しかった。気づいたら6時間近く経っていた。
Aさんが時計を見て言う。「とりあえず一回ためしてみない?」
「はい、いいっすよ」。わたしは何の躊躇もなくそう言った。
AさんとKはびっくりしたような表情を浮かべて顔を見合わせると、笑みをこぼした。後から聞いたら、わたしは絶対にやらないとあの段階では思っていたらしい。その意に反したことに対する反応だったそうだ。
これは今でも可能な範囲で貫いているスタイルなのだが、結局、物ごとは試してみなければわからない、と思う。どれだけ人の話を聞いても、本を読んでも、自分が体験しないぶんにはほんとうのことは何もわからない。さらに、このときは友人の勧めだったのだ。断る理由はなかった。
「じゃあ、今からいこっか」。Aさんはそう言って立ち上がり、Kもあとに続いた。
一瞬、おお今すぐかよ、と言いたい気持ちがわいたが「OK」と言って彼らの後について公民館を出て、Aさんの車の後部座席に乗り込んだ。
(第2話へと続く)
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当ストーリーはファウンダーであるShannonが実際に体験したノンフィクションです。そのため人名等は伏せています。記憶を頼りに書いていますので、万が一記憶違いなどがあった場合、すみやかに訂正します。Shannonは特定の宗教やカルトに現在属していませんし、信仰を勧めているわけでもありません。彼の体験をそのまま語ることが誰かの役に立てば、との思いで書いています。
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